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表と裏がひっくり返る、という小話

それはまだ、毎晩気絶するまで酒を飲んでいた頃のこと。ある朝、劇的な変化が起こったのだった。

夢も無い漆黒の眠りから幸いにも目覚めた僕は墓場の老いぼれ幽霊の様にふらふらと水を求めて台所へ向かった。胸元に垂れるのも厭わずコップ一杯の水を飲み干し、ふと姿見に目がとまった。目をこすって冬の太陽くらい霞んだ視界がだんだんと晴れていくと、冴えないおっさんの姿がそこにあった。寝癖でぼさぼさの髪と深酒ではれあがったまぶたにはこの際目を瞑ろう。問題は寝間着用のTシャツとステテコの上下着ともに表裏逆で着ていたコトだ。誰も見ていないとはいえ流石に恥ずかしい。我ながら本当に情けない。
いそいそと、着直した瞬間、ぎょっとした。
もの凄い異物感を感じたのだ。一匹の毒虫の類が混入したのかと疑い、すぐに服を脱ぎ捨てた。しかし、おそるおそる服内を覗いてみても何もいない。痛飲でとうとう体性感覚もおかしくなったのだろうか。何度調べても何もいない。鈍いままの頭で、脱ぎ捨てた服を着直してみて有ることに気がつき、何度も裏表を比べて、それは確信に至った。
異物感の原因はシーム--縫い合わせ部分だったのだ、と。
それまで何十年もの間、普通に着衣して縫い合わせ部分が肌にあたっていても異物感として感じなかったのに、一夜にして全てが変わってしまった。

この朝から僕は、肌着を表裏逆にして着ないといられない体になってしまったのだった。

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